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ダシール・ハメット『デイン家の呪い(新訳版)』小鷹信光訳、ハヤカワ・ミステリ文庫
サラ・パレツキーサマータイム・ブルース山本やよい訳、創元推理文庫
上遠野浩平『ぼくらは虚空に夜を視る』徳間デュアル文庫
 『サマータイム・ブルース』はけっこうよかった。探偵が一人の無力な市民として描かれていて、拳銃を購入したら市役所に届出るし、格闘をしてもかならず勝てるわけではない。しかも血液の流れをよくして明日からの捜査に差し障らないよう、気をくばる。妙に現実的な世界観だった。
 主人公の女探偵ウォーショースキーは男性の登場人物とのあいだに、ことあるごとに溝のようなものを感じてしまう。とくに、ハードな世界で生きていくということへの無理解はいつも付きまとっている。それに対して同性の登場人物となるとちょっと話がちがう。調査のために出会う大学生や、被害者の家族である幼い娘、失踪した事件の目撃者といった人々と、わりきった仕事上の関係ではなくより深いつきあいをもつことになる。ヴィクが彼女たちに向ける視線は共感的で、親身なものだ。そこにはリブ的な絆が描かれているようにみえる。