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●樹常楓『無限のドリフター』電撃文庫
●樹常楓『無限のドリフター2』電撃文庫
SF読みのあいだで話題になっていたので。序盤にはSF作品からの引用が畳み掛けるようにあり、ヒロインはバラードの終末的世界に惹かれていて、そして実際に作品の世界観は終末後に設定されている、などなど。
そういう風に読むこともできるだろうけど、個人的にはむしろ、作者の本領はべつのところにあるんじゃないかという気がした。とにかくべらぼうに戦闘描写がうまい、というのも登場人物の行動が目の前で起きているかのように描けているからで、まるっきり一から作った架空の世界を舞台にして、そこに存在する事物の手触りまで想像できるということには驚かされる。
●米澤穂信『折れた竜骨 下』創元推理文庫
中世ヨーロッパ的な世界を舞台にしたファンタジーかつミステリ。巻末の参考文献リストをみるまでもなく力作で、中世文化が自然に再現されているので、たんによくできたファンタジーとしても萌える。魔法の存在する世界でミステリはいかに描きうるか、ということでみても、ものすごく上手いとはおもう。
ただ、そこで用いられている論理が近代的な理性によるものと変わらないように感じられ、魔法の部分と謎を解決する論理の部分が独立している、つまりそれぞれが温存させられているという評価もできそうだった。
●熊野純彦編著『日本哲学小史 近代100年の20篇』中公新書
二部構成になっていて、前半部では日本の近代哲学がその前史から戦後の廣松渉と大森荘蔵の時代までにわたり一望される。新書とはいえ中井正一や木村素衛などかなりマニアックな人物にまで言及されていて、後半部においては、そうした哲学者たちの代表的な論文の概説を読むことができるようになっている。良書。