ニトロプラス『君と彼女と彼女の恋。』ネタバレ感想

 脚本下倉バイオということで話題になる前から気になってはいたので、通常版を発売日に買ってクリアした。昼ごろはじめて深夜に終わったので、かなり短めではあるけど、起動してそのまま最後まで続けたのは初体験。たしかに衝撃的ではあった。
 この作品にあるのは美少女ゲームにおける、幾多の選択肢から一人のヒロインを選ぶことの責任(というのもマッチョな責任感ですが)、あるいはロードをくりかえしてほかのヒロインを選ぶことの無責任さといった問題意識だろうか。その問題意識がたんに語られるのではなく、ゲームとして体験させられる。ノベルゲーにゲーム性をとりもどす試みとしても評価できそう。
 マルチヒロインであるにもかかわらず、最終的には一人のヒロインしか選べないという斬新さ。とはいえ、その選択肢となるヒロインの二人は、同じ土俵にのっているものだとされているみたいだけれど、じつは非対称的なんじゃないかとおもう。
 美雪ははじめに攻略され、二周目でプレイヤーがもうひとりのルートを選ぶことで裏切られたと豹変し、ゲーム自体を自分しか選ぶことのできないように作り変えてしまう。そこで美雪はもはや一方的に操作されるだけのキャラクターではなくて、むしろプレイヤーの操作を制御する側に回っている。すなわちプレイヤーとキャラクターの位置が逆転していて、そのため彼女はプレイヤーとして、自分に都合のいいように恋愛できてしまうという逆説にすら陥る。もはや作品の主人公の言葉を信じることができなくなり、現実にゲームをプレイしている「君」をこそ求めているのだ、というようになる。
 ここでプレイヤーは稀有な体験をする。キャラクターがキャラクターであることをやめ、ほとんど実在する人物として立ち現れ、むしろその視線によって自分こそがキャラクターとして攻略されているような体験だ。それはそれとしておもしろいのだけれど、とりあえずは置いておく。
 気になったのは先に書いた、選択肢の非対称性だ。一言でいってしまえばもうひとりのヒロイン、アオイってそこまでの実在感がないよね、という。なにやらメタな立ち位置に設定されてはいるものの、基本的には美雪による操作を一方的に受ける被害者であって、地獄のような生活を共にするわけでもない。まともに会話できるようになるまで時間もかかるので、アオイとの思い出は美雪ほど多くない。
 言いたいことは二つで、一つはアオイとの(あるいは美雪であっても多少はそうだけれど)共有する時間が短すぎることによる問題。十分に感情移入ができず、最後の決定的な選択肢の場面では純粋にキャラクターへの愛着ではなくて、ここで選ばれなかったら彼女はどうなるのだろうとか、今までこれだけ酷いことをしてきた責任、などといった基準がかなり入ってきてしまうんじゃないかとおもった。倫理的な誠実さというのはそもそも愛情を前提として必要とするのではないかなあ。
 もう一つはポジティブな評価として。この作品が一人のキャラクターを選択することの責任について描いてる、というのは美雪の場合に認められることで、アオイにはまたべつの観点がありえるんじゃないか。彼女はあらゆるヒロインのイデア云々といった謎の存在で、後半に美雪が何度もつきつけるように、もとはゲームのキャラクターでしかなかった(美雪はすくなくとも作品内では「実在」する)。それが段々とバグっていき、実在性を獲得していくのだけれど、その代償としてとある行為を強いられる。
 つまり最後の選択肢というのは、たんに二人のキャラクターのうち好きなほうを選ぶということではない。ひとりはほとんどプレイヤーのように実在するキャラクター、もうひとりはゲーム内においてすら実在をほとんど認められていないキャラクターという非対称な選択肢において、もしかすると愛情ではない基準によって決断させられている。
 ちなみに私は後者、アオイを選んだのですが、どうしてそうしたのか、そうするべきだとおもったのかいまだによくわかってない。そのうえ、終わってからもやもやしたものが残った。好きだからとか、かわいそうだとかいうことだけではなかったはずで、この点で色々考えるべきことがあるような気がした。そのうちまた書くかもしれない。